新潟地方裁判所 昭和55年(行ウ)8号 判決 1981年9月29日
原告 渡辺清太郎
被告 新潟県公安委員会
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 被告が原告に対し昭和五五年二月二九日付でした、昭和四八年六月八日付許可番号第一二八四八〇〇一五号の銃砲所持許可を取り消す旨の処分(以下「本件処分」という。)はこれを取り消す。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
二 請求の趣旨に対する答弁
主文と同旨
第二当事者の主張
一 請求原因
1 原告は被告の昭和四八年六月八日付許可番号第一二八四八〇〇一五号の銃砲所持許可を得、狩猟銃一丁を所持していた者であるが、被告は、原告が銃砲刀剣類所持等取締法(以下「銃刀法」と略称する。)五条一項六号の「人の生命若しくは財産又は公共の安全を害するおそれがあると認めるに足りる相当な理由がある者」に該当するとして、昭和五五年二月二九日付で右銃砲所持許可を取り消す旨の処分(本件処分)をした。
2 しかしながら、本件処分は次の理由により違法である。
原告に与えられた前記銃砲所持許可は昭和五三年六月八日付で更新されているところ、被告が本件処分の判断資料とした、原告が暴力団の組長であるなどの事情は右更新時すでに存在しており、被告もこれを知悉していたものである。その後、原告の素行、生活環境、行動等に劣悪な変化は全くなく、原告は銃砲の管理には慎重を期しており、原告には銃砲に関し法規違反の行為はなく、粗暴的犯罪を発生させたこともないにもかかわらず、被告が本件処分をしたのは裁量権の濫用であつて、違法である。
よつて、原告は被告に対し本件処分の取消しを求める。
二 被告の答弁
(請求原因に対する認否)
1 請求原因第1項は認める。
2 同第2項の事実のうち、原告に与えられた銃砲所持許可が昭和五三年六月八日付で更新されたこと、右更新時、原告が暴力団の組長であり、被告がこのことを知つていたことは認めるが、更新後、原告の素行、生活環境、行動等に劣悪な変化は全くなく、原告が銃砲の管理には慎重を期しており、原告には銃砲に関し法規違反の行為はなく、粗暴的犯罪を発生させたこともないことは不知、その余は争う。
(被告の主張)
1 被告は本件処分に先立つ昭和五三年六月八日、本件処分にかかる狩猟銃の所持許可を更新した。当時、被告は、原告が組長となつている暴力団極東飴源池山一家渡辺組と暴力団極東関口中津川組とが糾合して上越連合会を結成し、原告がその総長になつたらしいとの情報を入手していたが、これを確認するまでには至らなかつた。そして、その後、原告から昭和五四年一二月二五日付で、本件とは別口の昭和四四年八月八日付許可番号第一二八四四〇〇二号にかかる射撃銃について所持許可の更新の申請があつたので、被告において、原告の右射撃銃の所持が銃刀法所定の不許可基準に該当するに至つていないかどうかを審理したのであるが、その過程で原告が右上越連合会の総長になつていることが資料によつて確認できた。ところで右中津川組は広域暴力団山口組系金田組と昭和五〇年ころから対立抗争を繰り返し、この抗争においてはいずれの場合も銃器あるいは刃物が用いられた。このような暴力団同士の対立抗争が底流としてある中では中津川組がその一翼を担つている以上、上越連合会が直接右対立抗争に関与する可能性は極めて大きく、原告がその総長となつていることは原告自身が渡辺組の組織および構成員についてのみでなく、中津川組の組織および構成員にも統制、指導等の影響力を与えることになり、一旦、暴力団同士の対立抗争事件が発生した場合、原告は渡辺組の関係するもののみではなく、中津川組の対立抗争事件にも関与せざるを得なくなることは、過去の経験的事実に照らして明らかである。したがつて、原告が上越連合会の総長となつたことは、原告自身が他人の生命もしくは財産または公共の安全を害する行為をする蓋然性が増大したものといわなければならない。現に前記上越連合会の単位組織である渡辺組および中津川組の構成員による暴力的不法行為は原告が本件処分にかかる狩猟銃について所持許可の更新を受けた昭和五三年六月八日以降も引き続き多発しており、右蓋然性の減少傾向は認められない。そのうえ、全国的にも暴力団関係者による銃器発砲事件が後を断たず、世論のきびしい指弾を受けていることなどを考慮して、被告は本件処分をしたものである。
三 被告の主張に対する原告の反論
原告が渡辺組の組長であり、上越連合会の総長となつていることは事実である。しかし、原告が銃砲を所持しているのは全くの個人的趣味としてであり、渡辺組のため、あるいは上越連合会のためこれを使用したことはないし、そのような意思は全く持つていない。原告が銃砲の所持について最初に許可を得たのは昭和三三年ごろのことであり、それ以来、本件処分があるまで原告は銃砲の保管、使用に関し間違いを起こしたことはなく、同好の士とマナークラブまで結成してその保管使用について細心の注意を払つている。銃砲は、元来、人を殺傷する用具としても使用できるものであるから、抽象的にはそれ自体危険なものには違いないが、右のような事実に鑑みると、原告が銃砲を所持していることについてこれが他人の生命もしくは財産または公共の安全を害することに用いられる具体的危険性は全くないものというべきであり、したがつて、原告は銃刀法五条一項六号には該当しないことは明らかである。
第三証拠<省略>
理由
一 請求原因第1項の事実は当事者間に争いがない。
二 そこで、本件処分の適否について判断するのに、原告本人尋問の結果によれば、原告は自己の趣味としてその所持許可を受けた銃砲を、一丁(本件処分にかかるもの)は狩猟の用途に供するため、他の一丁は標的射撃の用途に供するため所持しているものであり、常日ごろ、これらの銃砲は原告の自宅に設けられた特別のロツカーに弾丸とは別々に保管されており、原告はこれまでこれらの銃砲を所定の用途以外に使用したことはないうえ、同好の士とマナークラブまで作つてその管理には十分な注意を払つていることが認められる。しかしながら、いずれも成立に争いのない乙第一、第二号証、証人佐々木辰雄の証言とこれにより真正に成立したと認められる乙第三、第四号証および原告本人尋問の結果によれば、
(1) 原告は寿司店とスナツクバーの経営を生業としている者であるが、一方で、一〇数年前から新潟県上越市(旧直江津地区)に本拠をおく暴力団極東飴源池山一家渡辺組の組長をしており、その配下におよそ四〇名の組員を擁していること、
(2) そして、渡辺組は昭和五一年八月ごろ、同じく上越市(旧高田地区)に本拠をおき、およそ二〇名の組員を配下に擁する極東関口中津川組と糾合して上越連合会を結成し、原告がその総長になつたこと、
(3) ところで、右中津川組と上越方面への進出を目差す広域暴力団山口組系金田組との間には、昭和五〇年ごろからその勢力圏を巡つて対立抗争が激化し、同年四月中には三回にわたつて暴力的抗争事件が発生したこと、その後、この対立抗争は鎮静化しているが、右上越連合会が結成されたのは右抗争事件後、間もなくのことであり、金田組との抗争が結成の契機となつたことは明らかであること、
(4) のみならず、右対立抗争事件は別としても、渡辺組および中津川組の各組員による犯罪は少なくなく、原告が本件処分にかかる狩猟銃につき所持許可の更新を受けた昭和五三年六月八日以後においても渡辺組の組員による銃刀法違反、暴力行為等処罰に関する法律違反、恐喝、傷害、覚せい剤取締法違反等の犯罪が一五件、中津川組の組員による同種の犯罪が二〇件も発生していること、
(5) 被告は、本件処分にかかる狩猟銃一丁について所持許可の更新をした昭和五三年六月八日当時、原告が上越連合会の総長になつているとの情報を入手していたのであつたが、確認するまでには至らなかつたので、ひとまず右所持許可の更新を認めたこと、そして、その後、原告から昭和五四年一二月二五日付で別の射撃銃一丁について所持許可の更新の申請があつたので、これを審査する過程で原告が上越連合会の総長になつていることが確認できたので、右申請を却下する一方、すでに更新のあつた右狩猟銃についても所持許可を取り消した(本件処分)こと、
が認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。
以上の事実によれば、原告がその所持許可を受けた銃砲についてこれまでに採つて来た使用、保管の方法は関係法規に則つた極めて適切なものであつて、このこと自体については何ら非難の余地は存しないが、このような管理方法が採られているからといつて、原告がひとたびその意をひるがえし、これを本来の用途以外に使用しようと思えばいつでも使用できることは多言を要しないところである。そして、原告は暴力団極東飴源池山一家渡辺組の組長の地位にあり、その組員による暴力事犯が繰り返されていること、のみならず、原告は渡辺組と極東関口中津川組とが糾合して結成された上越連合会の総長にもなつており、中津川組と広域暴力団山口組系金田組との間には、現在鎮静化しているとはいえ、対立抗争が底流として存在していること、また、これとは別に中津川組の組員による暴力事犯は渡辺組の組員による以上に多発していることからすると、原告がその立場上止むなく右銃砲を暴力団の活動にからんだ対立抗争等に使用するおそれのあることを全く否定し去ることはできない。現に暴力団同士の対立抗争は後を断たず、その対立抗争の中で銃砲が使用されることも稀ではなく、そのため通行人や付近住民が巻き添えを食うなど、多大な社会不安を惹き起こしていることは公知の事実であり、以上のような事情に鑑みると、被告が原告について銃刀法五条一項六号に該当するとしたのには相当の理由があり、その裁量を誤つたものとは認められない。
ところで、原告は、銃砲の所持許可の更新時にすでに存在した事実に基づいてその後に所持許可の取消しをすることは許されないように主張するが、銃刀法五条一項は、同項各号に該当する者については絶対的に銃砲等の所持は許さない趣旨の規定と解されるから、都道府県公安委員会は一旦その所持許可を与えても、後にその者が同項各号に該当するとの判断に達すれば、同法一一条一項二号の規定の類推適用によりいつでもこれを取り消すことができると解するのが相当であり、したがつて、原告の右主張は採用できない。
三 よつて原告の本訴請求は理由がないから失当としてこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 柿沼久 大塚一郎 竹内純一)